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心臓:病理学

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Category;病理学

先天異常

  1. 原因
  2. 大静脈と肺静脈
    1. 左大静脈遺残
  3. 心房
    1. 心房逆位
    2. 卵円孔開存:胎児期に右心房から左心房に短絡させていた卵円孔が生後3ヶ月以降も閉鎖しないもの
    3. 心房中隔欠損
  4. 房室結合部
    1. 房室中隔欠損
  5. 心室
    1. 心室中隔欠損
    2. ファロー四徴(五徴):心室中隔欠損、大動脈騎乗、肺動脈狭窄、右心室肥大(#心房中隔欠損でファーロー5徴候)
    3. ファロー極型
    4. アイゼンメッガー症候群:心室中隔欠損や動脈管開存など左右短絡を示していた奇形で、肺血管で閉塞性病変が進行し左右短絡を示すようになった状態
  6. 大動脈と肺動脈
    1. 動脈管開存;生後まもなく閉鎖するべき動脈管が開存しないもの
    2. 閉鎖と狭窄
    3. 大動脈弓離断
    4. 大動脈狭窄
    5. 大動脈弁下狭窄
    6. 両大血管右(左)室起始
    7. 完全大血管転換
  7. その他

心膜

非炎症性病変

  1. 心冠脂肪の膠様萎縮
  2. 心膜気腫
  3. 乳び心膜
  4. 心膜水腫
  5. 心膜血腫
  6. 心外膜出血

炎症性病変

  1. 漿液性心膜炎
  2. 線維素性心膜炎
  3. 牛の創傷性心嚢炎(外傷性心膜炎)
    1. 第二胃からの異物の穿通
    2. 繊維素性心膜炎
    3. 細菌感染→化膿性
    4. 腐敗菌→腐敗性
  4. 化膿性心膜炎
  5. 肉芽腫性心膜炎
    1. 結核

1) 心膜腔内異常

心冠脂肪の膠様萎縮;栄養状態の著しい悪化によって心冠脂肪が動員され、透明感のある灰白色または黄色をおびた漿液性脂肪組織に変化した状態(漿液性萎縮)心膜気腫(症);創傷性に侵入したガス産生菌によってつくられた気体が心膜腔内に貯留した状態

心膜水腫(症)
循環障害や低蛋白血症などによって心膜腔内に漿液が貯留した状態
心膜血腫(症)
大動脈起始部、冠状動脈の破裂などにより心膜腔内に凝固能を持つ血液が貯留した状態

2) 心膜炎

漿液性心膜炎;心膜腔内に漿液性滲出物を煎れ、時にフィブリンが浮遊している。線維素性心膜炎;血行性におこる感染や肺や胸膜からの炎症の波及による。心膜の運動に伴って付着した線維素が毛羽立ったビロード状となり絨毛心とよばれる。滲出物の器質化が進行し、癒着が生じると心房の拡張不全や心筋肥大が起こる。また滲出物が多い場合には分厚い肉芽組織が形成され装甲心と呼ぶ。

創傷性心膜炎
牛の第二胃内の尖体異物が胃壁、横隔膜、心膜を穿通することによって起こる。大量の線維素析出を伴う。穿通孔を通じて化膿菌や腐敗菌による感染が起こる。
肉芽腫性心膜炎
結核菌による真珠病が代表的。表面に光沢のある多発性結節性病変を生じる。割面の中心部には乾酪壊死が認められる。

心内膜

心内膜症
小型老齢犬の僧房弁に多発する。弁膜に酸性ムコ多糖が大量に蓄積し二次的な線維化によって弁は不規則に肥厚する。腱索は太く脆弱となり時に断裂する。心房拡張やうっ血性心不全を伴う。
石灰沈着
主として転移性で腎性上皮小体機能亢進症やビタミンD過剰症などによる高カルシウム血症に随伴してみられる。
心内膜炎
ほとんどが弁膜炎を示す。牛では創傷誠胃炎、乳房炎、蹄間腐乱などの敗血症などによって起こり、主として三尖弁に病巣を形成する。犬では歯肉炎が先行病変となることが多く、主として僧房弁に病巣を形成。細菌性疾患以外では犬糸状虫や尿毒症が原因となる。

<細菌性心膜炎の経過>

急性期;弁は充出血や水腫性に肥厚し、弁組織の変性や壊死によって潰瘍を生じる。 (潰瘍性心 内膜炎)。血栓形成、炎症性細胞反応、器質化などにより弁にカリフラワー状の脆弱な病巣を形成。(疣贅性心内膜炎) 慢性期;肉芽組織の増生、石灰沈着のため弁が不規則に肥厚、硬化し、結節状になる。

心筋

肥大・拡張、心不全

心臓に対する負荷が長期にわたり徐々に増大した場合は適応して心筋肥大がおこるが、適応能力以上に付加が増大した場合には心臓は拡張し、心不全の状態になる

    • 心筋肥大
      • 求心性肥大(収縮期圧負荷):収縮期の圧負荷が増大した場合に起こるもので、心室腔の容積は変わらない。&br;原因;(左)高血圧、大動脈弁閉鎖 (右)肺動脈弁閉鎖、肺高血圧(肺性心)
      1. 左心肥大→高血圧・大動脈弁狭窄
      2. 右心肥大→肺高血圧・肺動脈弁狭窄・肺気腫
      • 遠心性(拡張性)肥大(拡張期容積負荷):拡張期の容積負荷が増大した場合に起こり、心室腔の拡張を伴い心室壁の厚さは通常正常で時に拡張する。原因;二尖弁、大動脈弁閉鎖不全
      1. 二尖弁・大動脈弁閉鎖不全
    • 拡張:心臓拡張の多くは肥大心が容積負荷の増大に適応できず、心不全に陥る過程で生じる。また、心筋変性などの病変が存在して負荷に耐えられない場合、筋原性の代償不全性拡張になる。
      1. 内腔容積増大→壁の菲薄化
      2. 筋原性代償不全性拡張(心筋変性由来)
    • 心不全
      • 急性心不全(急性肺性心、急性心筋梗塞、心筋炎などによる)
      • 慢性心不全(うっ血性心不全)
      • 左心不全→肺うっ血・心臓病細胞:左心障害により肺のうっ血水腫をきたし、漏出性出血を続発し、ヘモジデリンを貪食した担鉄細胞(心臓病細胞)が浸潤し、肺胞壁は線維性に肥厚し、褐色硬化の像を示す。
      • 右心不全→うっ血肝・脾、腹水、後肢水腫:多くは慢性左心不全に続発し、慢性の右心障害や肺性心の結果起こることもある。心臓の拡張や後大動脈のうっ血をきたし、後肢の浮腫、うっ血性肝硬変、脾腫や腹水などの症状を示す

変性

  1. 混濁腫脹
  2. 水腫変性
  3. 脂肪変性:毒性物質によって引き起きされる。心筋細胞内に脂肪的が沈着する。凍結切片、ズダンIIIで横稿状であり、肉眼でも斑状にみえることがある。(cf;脂肪心;肥満した犬や猫、肥満牛で心外膜下や心筋間に脂肪細胞が浸潤したもの。)
    1. 虎斑心
  4. 色素変性
    1. リポフスチン(Lipofuscin)(栄養不良、消耗性疾患)
      1. 褐色萎縮:消耗性疾患や慢性栄養不良の際にみられ、肉眼的に心筋は暗褐色となり、組織的には萎縮した心筋細胞に消耗性色素(リポフスチン)が沈着している
      2. 消耗性色素
      3. 消耗性疾患
      4. 慢性栄養不良
  5. 糖原蓄積症
    1. グリコーゲン蓄積(糖原病一遺伝病)
  6. アミロイド変性
    1. アミロイド沈着(血管壁):全身性アミロイド症の一症として心臓にもみられる
  7. 石灰沈着:一般に壊死心筋線維に異栄養性に起こる。牛の有機水銀中毒ではプルキンエ線維束の硝子変性に引き続き石灰が沈着し、線維化する。

心筋壊死

原因としては栄養性(白筋症、馬の筋色素尿症)、中毒性、神経原性(豚ストレス症候群)、感染性(口蹄疫、ジステンパー)、および貧血性疾患などがあげられる。特に虚血性の心筋壊死は心筋梗塞であり冠状動脈の狭窄、閉鎖によって生じる。動物では稀で、疣贅性心内膜炎に起因する血栓や腫瘍梗塞によるものがある

  1. 栄養性
    1. ビタミンE、セレン欠乏(白筋症)
  2. 中毒性
    1. モネンシン、殺鼠剤、強心配糖体
  3. 感染性
    1. 口蹄疫、ウイルス
  4. 神経原性
    1. 交感神経機能障害、PSE
  5. 虚血性
    1. 冠状動脈の狭窄、閉鎖、痙攣←血栓・塞栓症/動脈硬化症

心筋炎

家畜の心筋炎のほとんどが感染性のもので、ウイルス、細菌、原虫、寄生虫などが原因となる。

(1) 細菌性心筋炎

多くは敗血症から化膿性筋炎を起こす。牛ではHaemophilus somnus感染症、豚では豚丹毒でとくみられ、慢性化すると疣贅性心内膜炎を併発することが多い。

(2) ウイルス性心内膜炎

  • a. 豚の脳心筋症
    • 原因;(Pidornaviridae Aphthovirus)
    • 病理;心筋壊死および好中球、単核球の浸潤。
  • b. 犬のパルボウイルス心筋炎
    • 原因;犬パルボウイルス2(CPV*2)
    • 病理;心筋の多発性巣状壊死がみられ、心筋線維に好塩基性の核内封入体が観察される。
  • c. 口蹄疫
    • 原因;Picornaviridae Aphthovirus
    • 病理;新生子牛では非化膿性心筋炎をおこす。
  • その他
    • 馬鼻肺炎、ブルータング病、豚水泡病、悪性カタル熱、PRRS、オーエスキー病、犬ジステンバーなどで心筋炎を認める。
    1. 細菌性(化膿性)ー敗血症性
    2. リケッチャ・クラミジア
    3. ウイルス性
    4. 原虫性
    5. 寄生虫性

心筋症

臨床的意味
心機能不全全般
病理学的意味
心肥大、心筋線維の変性・萎縮、心筋線維の肥大、線維化(間質の増生)
  1. 心筋症の分類
    1. 特発性心筋症(原因、基礎疾患不明)
      • 拡張型心筋症(うっ血型心筋症)Dilated cardiomyopathy
      • 肥大型心筋症 Hypertrophic cardiomyopathy
      • 拘束型心筋症 Restrictive cardiomyopathy
    1. 二次性心筋症(原因、基礎疾患が明白)
      • 細菌感染
      • ウイルス感染
      • 原虫感染
      • 先天性代謝疾患
      • アミロイドーシス
      • 内分泌疾患
      • 神経筋疾患

拡張型心筋症(うっ血型心筋症)Dilated cardiomyopathy

心内腔の拡張と心筋の収縮不全

臨床
うっ血性心不全、呼吸困難、肝腫大、水腫
病理
心筋細胞の変性、脱落、間質線維化、残存心筋細胞の肥大

肥大型心筋症 Hypertrophic cardiomyopathy

心筋細胞の肥大と心内腔拡張障害

臨床
拡張期伸展性の低下
病理
心筋細胞の肥大と錯綜配列(さくそうはいれつ)、変性、び漫性の線維化

拘束型心筋症 Restrictive cardiomyopathy

心内膜の肥厚による心内腔拡張障害

臨床
心室拡張障害
病理
心内膜心筋線維化(心内膜の線維化)、心内膜線維弾性症

動物の心筋症の発生報告

    1. 肥大型>拡張型>拘束型(米国)
    2. 肥大型>拘束型>拡張型(日本)
    3. 遺伝性素因が関連?
    1. 拡張型>>>肥大型
    1. 拡張型>>肥大型
    2. 遺伝性素因が関連?

心内膜

心内膜症

犬の心弁膜に生じる粘液変性。肉眼的に1~4型に分類されている。&br; 原因は不明。&br; 加齢性に増加する。&br; (参考→http;//ippan.nichiju.or.jp/info/180614.pdf)&br; 病理学的特徴は内皮下の海面質の線維芽細胞増生と結合織の粗鬆化。

線維化

心内膜弾力線維症

石灰沈着

色調異常

出血、弁膜血腫、弁膜嚢胞

心房血栓症

心内膜炎

大きく感染性心内膜炎と非感染性心内膜炎(→悪性腫瘍等の消耗性疾患や血液凝固異常を示す症例などに好発)に分かれる。&br; 細菌性心内膜炎の病理像では弁膜に主座して梗塞性もしくは細菌が定着して発生するが動物ごとに発生部位に相違が見られる。

  1. 細菌性心内膜炎
    1. 牛の心内膜炎→連鎖球菌&Arcanobacterium pyogenes(pyo=微小膿瘍の意)
    2. 豚の心内膜炎→溶血連鎖球菌、豚丹毒
    3. 馬の心内膜炎→Streptococcus equi , Actinobacillus equuli
    4. 犬の心内膜炎→連鎖球菌、大腸菌→原発するのではなく慢性化膿性炎に継発して発生する。
  2. リウマチ性心内膜炎
    1. 自己免疫性疾患(人)で関連?

牛の心内膜炎

創傷性胃炎、肝膿瘍、子宮内膜炎、乳房炎、蹄炎→細菌血症→右側房室弁=血栓・潰瘍性心内膜炎、疣贅性心内膜炎

刺激伝導系

洞結節の異常

房室結節、ヒス索および脚の異常

腫瘍

心膜の腫瘍

中皮腫

心臓原発腫瘍

血管肉腫、横紋筋肉腫、他

転移性腫瘍

牛白血病

化学受容体腫瘍